【コラム】初めての解説について、じっくりと聞きました

FIFAフットサルワールドカップが閉幕して、もうすぐ2カ月が経とうとしています。

フットサル日本代表も、フットサル日本女子代表も新監督が発表され、女子代表は早くも新体制での代表候補合宿が行われました。代表選手の多くの選手が選出されるFリーグ、日本女子フットサルリーグもシーズン終盤に向け、熱戦が繰り広げられています。

コロナ禍の影響で4年のサイクルが崩れたため、次のフットサルワールドカップはもう3年後。今回は指導者としてフットサルに携わり日本を代表する選手を輩出することを目指しながら、今回のワールドカップで初めて試合の解説を務めたアレナトーレ所属の小宮山友祐監督(バルドラール浦安)に、解説についてじっくり聞きました。

と言っても、小宮山監督と私は小学校時代からの幼なじみであり、35年を超えるつき合いなので、「取材」や「対談」というほどかしこまったものではなく、「日常会話」のようなフランクな雰囲気でお届けしたいと思います。

(聞き手:しょうこ 語り手:小宮山友祐)

まずは改めて解説お疲れさまでした。初めての解説、どうだった?

今の世界トップレベルのフットサルを間近で知ることができて、有意義な時間だった。世界はフィジカルの部分、スピードと強度とパワーが進んでいる。どのチームもシンプルにゴールを目指す、ゴールを奪う、ゴールを奪われない。そういうところにフォーカスしていたという印象を受けた大会だったかな。

モロッコのようにクワトロでボールを回しながらサイドで1対1を仕掛けていくというのも見応えはあったけど、強いピヴォがいる国は上位に上がるし、最終的には個の力で抜けるか抜けないか。もちろん組織と個、戦術と技術、メンタルもフィジカルもすべて大事だと思うけど、特にフィジカルと個は印象に残った。その結果、CKやキックインでアウトサイドからのボレーのゴールの確率も高まったと思うし、シュートエリアが広がった。今まで10mや12mだったものが14、5mになって、「そこから打って入るのか」というゴールも見られたし。そこもフィジカルに起因するのかな。パンチのあるシュートを打てる選手が増えたことに、気づかされたよね。

 

日本以外の試合はどのくらい勉強したの?

 

めちゃくちゃ見たよ。初めて解説をさせてもらったし、J SPORTSは有料放送だからお金を払って見てくださる方がいるわけで、自分の発言が適当なものであってはいけないという緊張感と危機感があったから。Fリーグの監督という立場上、いい加減なことは言えないし、フットサルは単なるミニサッカーではないということを伝えたい。きちんとした戦術、技術、考え方に基づいたスポーツだということを知ってほしかったから、そのためにも勉強したよね。

 

-じゃあ、ほとんどの試合を見た?

 

まったく見ていない試合はグループステージの数試合。決勝トーナメントに上がってくるだろう国の試合は見たし、決勝トーナメントに入ってからはもちろん、ほとんどの試合を見た。

 

試合は生物だから、スカウティングや予測をしていても何が起こるか分からないよね? そういうところの難しさはあったのかな。

 

そうだね。もちろん何が起きるか分からない。ただ、ワールドカップでも上に上がれば上がるほど、フットサルがシンプルだった。事前にスカウティングをしたことが再現性高く行われている。ブラジル然り、ポルトガル然り、アルゼンチン然り。不動のスターターがプレーモデルを変えずに戦う。カザフスタンがいい例で、相手がどこであろうがGKを使うし、上位の国はどうすれば勝てるかというところに注視してシンプルに戦っていたよね。

 

-解説した試合で驚いたことはないの?

 

驚いたことはたくさんあるよ。ただ、その驚きの質かな。

 

例えば目新しい何かがあった、ということではないんだね。

 

そうだね。まったく新しいトレンド、今まで誰も知らなかったこと、というのはなかったね。

 

分かっていても止められない個の力に驚いた、みたいなこと?

 

例えば絶対にピッチの中でサボれないトランジションの速さ、とか。これが世界基準か、って。セルビアのピヴォに体格がよくて収まると怖い選手(7番/ドラガン・トミッチ)がいたんだけど、走れないから数的不利の状態を作ってしまう。最初に触れたようにどこの国もフィジカルベースが上がっていて、とにかくスプリントをするし、切り替えが速くてすべてをチャンスに繋げようとする。ディフェンス面ではパスラインを切るのが早くて、簡単に失点には繋がらない。やっぱりこのレベルになるとこういう試合展開になるんだ、って。ちゃんとコースを消す、的確にスライディングをする、危ないところに撤退する。当然ながら、上位の国同士だと強いピヴォに対して強いフィクソがいるしね。ブラジルのフェラオのようないいピヴォであっても簡単には反転させない。世界的には名前の通っていない選手、日本のアルトゥール選手(オリベイラ アルトゥール/名古屋オーシャンズ)だってそうだったけど、そういう選手が当たり前に相手を抑えていた。

 

あなたは現役の時、言うなればフィクソらしいフィクソだったけど、当時世界では点も取れるフィクソが増えてきていたよね。ワールドカップに出場した9年前と比べたらどうだった?

 

専門的なスキルが、より色濃くなった大会だったと思う。一時期、なんでもできる選手、ウニベルサーレという言葉が流行っていたけど、ほとんどのフィクソがそういうことができるようになったから、また一周して各々のポジションで発揮する強烈な個が如実だった。ブラジルを例にすると、ディエゴはドリブルで仕掛けて、ロドリゴは後ろにドスンと構える。点を取るフェラオがいて、ガデイアがバランスを取って。何でもできる選手たちだけど、全員がいろいろなことをやるのではなく、専門的な選手がしっかり特徴を出すことがスタンダードだったと思う。

 

ワールドカップ自体はどうだった? おもしろかった?

 

俺はおもしろかった。ファルカン(元フットサルブラジル代表)も引退してしまって、世界的に有名な選手はリカルジーニョ(フットサルポルトガル代表)やフェラオくらいだったかもしれないけど、ポルトガルのジッキーのようにおもしろい選手が何人もいたし、見応えのある大会だった。自分が出た時よりも明らかにスピード感が増して、インテンシティが高くなったという印象を受けたね。あとはレフェリーのレベルもすごく高い。

 

具体的には?

 

ピヴォとフィクソのところだよね。ポジション争いで簡単に笛を吹かない。でも、後ろからのような危険なプレーにはきちんと吹く。その基準がぶれずに、しっかりしていた。

 

レフェリーも世界レベルってことだよね。

 

そうそう。ちゃんと見ている。シミレーションなのか、先にどっちがコンタクトをしたのか。フィクソがよくやられるのは、ピヴォが自分から近づいてきて当たられて自ら転ぶようなシーンなんだけど、一見フィクソが押したように見えるところでもきちんと見ているな、と。まあ、トップレベルのピヴォは簡単には転ばないしね。激しく守備にこられても、何ともないようにしっかりボールを収めるから。

あとは、各国の代表に帰化したブラジル出身の選手が入っていることは、9年前とあまり変わらなかった。ブラジルからの帰化選手がいなかったのはポルトガルとアルゼンチンくらいかな。

それから、あなたも言っていたけど、ベスト16までとベスト8からの差が開いていたよね。日本も世界のレベルに近づいてはいるけど、トップレベルとはまだ差がある。グループステージで勝てなかったパラグアイがひとつの指針だと思っているんだけど、そのパラグアイが決勝トーナメント初戦でアルゼンチンに大敗したわけだから、やっぱり8以降はさらに一段上がると思う。

 

取材の時に智貴くん(吉川智貴/名古屋オーシャンズ)も言ってた。「よくやったと言ってもらえるし、実際によくやったと思うけど、次に日本がやらなくてはいけないことは中堅に対する勝率を上げていくこと。グループステージでパラグアイに負けたところが肝だった」「国内でのパラグアイとの親善試合でも負けているし、中堅国に対して五分五分からそれ以上の勝率で勝っていかないと」って。

 

間違いないね。智貴の言うとおりだと思う。そういう国に勝てなければ成長は遅くなる。3年後にどんな選手がいるかは分からない。でも、ピヴォでいえば翔太(星翔太/名古屋オーシャンズ)は引退するけど次世代を担う和也(清水和也/コルドバ・パトリモニオ)や元亮(毛利元亮/ペスカドーラ町田)がいて、そこにあと1人誰が入ってくるのか。フィクソもアルトゥールのような選手がもっと出てこないと厳しいよね。そういう意味で、まだ日本は世界の中の中くらいなんじゃないかな。世界ランキング10位が妥当で、9位以上はまた一段違ってくる。

 

なるほどね。大会もだけど、解説の仕事もおもしろかった?

 

おもしろかったよ。自分の解説がいいか悪いかでいうと、「あれは解説なのか?」って疑問符がつくのかもしれないけど…(笑)。選手も監督も経験しているから次の展開はある程度予測できるけど、言葉でフットサルを伝えること、何をどう具体的に伝えるかというところは難しかった。だから特に、日本対パラグアイは日本を応援する1人の日本人として純粋に視聴者のみなさんと盛り上がることを意識したかな。もちろん狙いがあったプレーに対しては説明をするけど、細かいことを話しすぎて試合の雰囲気を壊したくなかった。実際に自分も興奮したし、思ったことを言葉にするほうが共感を得られるかな、と思いながら。でも、決勝は月をまたいでいたでしょ。決勝まで見る人はフットサルという競技を好きな人だと思ったから、決勝では戦術に特化したことや、それまでのポルトガルとアルゼンチンの戦い方を見て予測できることを伝えたつもり。

 

「フットサルの魅力を伝える」って色々なアプローチの仕方があって、何が正解ということはないけど、中継って公立の小学校の授業みたいなものだもんね。ワールドカップで初めてフットサルを見る人、普段から試合に足を運んでいる人、選手の顔や名前をすべて分かる人、選手や指導者も見るだろうし、フットサルに対する知識や理解度にはバラつきがあって。

 

そうそう。だから、日本対パラグアイは初めて見る人が多いと思って難しい言葉をチョイスせず、自分が選手だったからこそ分かる思いやパッション、どのスポーツにも共通する心を動かされる部分に注力した。この解説者も一緒に戦っているんだな、と思ってもらえるように。

 

中継って資料が送られてくるでしょ? それは勉強になった?

 

俺が勉強になったのは、選手たちが何を考えて試合に臨んでいるかの資料。ブラジルならブラジルのサッカー協会が監督や選手にインタビューした内容を、まとめてくれていたんだよね。数字上のデータももちろん大事なんだけど、日本にいると現地の監督や選手に何かを聞くこともできないし、日本以外の国の情報はなかなか入ってこない。だから、監督や選手の生の声を知られたことはすごくよかったよね。解説は試合を見て感じたことを話すのが役割だから、俺がその資料の内容を話すことはなかったけど。

 

それでも、そういった思いを知って試合を見られたことがプラスになったんだ。

 

うん、そう思うな。当たり前だけど色々な選手が色々な思いを背負ってフットサルをプレーしているんだな、って。

 

なるほどね。ありがとう。ワールドカップを終えてまたリーグ戦が再開しているから、引き続き監督業もがんばってください。

 

ありがとう。次回のワールドカップには、自分が指導者として関わった選手を日本代表に輩出したいという思いが強い。だから、選手たちにはこれからも世界を常に意識して取り組んでいくように指導していきたいと思ってるよ。がんばります。

 

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