【コラム】ピッチの外で戦うということ

FIFAフットサルワールドカップが閉幕し、早くも1カ月が過ぎました。帰国後の隔離期間を経て、すっかり日常が戻ってきていますが、現地の歓声や雰囲気、温度感は今でもはっきりと思い出すことができます。

今回のワールドカップでは、初めての経験をさせてもらいました。それは「サポーターと一緒にチームバスを迎える」というもの。フットサル日本代表の応援団体「Poeira」の皆さんにお願いして、スペイン戦のお出迎えに同行しました。

当日はあいにくの雨で気温も10℃前後。でも、気合を入れてユニフォーム1枚で臨みました。腕にたくさんの鳥肌を立てながら。バスの到着時間が近くなるまではアリーナの軒下にいたのですが、チームバスの運行状況はリアルタイムで見られるようで、スタッフの方が「バスを待っているの?」「場所は分かる?」「先にスペインが来るよ」「日本は今このあたり。あと15分くらいかな」と親切に教えてくれました。リトアニアという国の人柄なのか、フットボール文化が根づいているヨーロッパだからなのか、とにかく現地ではメディアもサポーター(に擬態している私も含む)も、歓迎され親切にされることが多かったです。

そして、実際に駐車場にバスが近づいてくるところが見え、横断幕を持ちながらバスを追いかけ、停まったバスから降りてくる選手に向けて「ニッポン! ニッポン!」とコール。バスを追いかけてから選手の姿が見えなくなるまで、たった3分間の出来事でした。選手の姿だって数十秒見られたかどうか。そのために何倍もの時間を待機して、全身全霊をかけて応援の気持ちを伝えているんです。でも、たった数秒でもこれから試合に臨む選手の姿が見え、こちらに向けてガッツポーズをしてくれた時の喜びは、待機時間や寒さなんて吹き飛んでしまうほどでした。よく「サポーターの力が後押しになる」と言いますが、これは試合中だけのことではなく試合前から一緒に戦っているんだ、と実感した出来事でした。

アンゴラ戦の前にPoeiraの山川さんと

普段から国歌斉唱は一人だろうが、周りに人がいようが、全力で歌う私ですが、この日以降の国歌には余計に気持ちがこもりました。「恥ずかしくて歌えない」という声を聞くこともがありますが、私は応援する気持ちを届けることを恥ずかしいと思ったことは一度もありません。ベンチには入らない代表スタッフの中にもスタンドでしっかり国歌を歌う方がいるんですが、気持ちがひとつになっていると感じられてとてもいいものです。そして、「苔のむすまで」の余韻の中で届く「ニッポン!」コールの完璧なタイミング。これから日の丸を背負った戦いが始まるんだ、という気持ちがさらに湧き上がってきます。フットサルという競技自体がとても好きなので、普段からどのカテゴリの試合でも楽しんでいますが、やっぱりワールドカップの心が奮い立つ感覚は別格ですね。そして、その別格な戦いをスタンドから後押しする空気づくりもまた、別格でした。

国内のフットサルの試合はほぼ仕事なので、「応援する」という立場で試合を見ることは久しくありませんが、ワールドカップでは仕事とはいえ各国のメディアの方々も熱がこもっていて、声を上げ、嘆息し、自国のプレーに一喜一憂していたので、私も存分に感情を出しながら試合を見ることができました。ブラジル戦では隣にFIFAのオフィシャルカメラマンがいたのですが、先制点に喜び、同点に追いつかれて「まだまだ!」と手を叩く私をおもしろがって写真を撮ってくれたり、ブラジルのチャレンジのシーンでは撮影した写真をズームで見せてくれ「ほら、ここ見て。判定は変わらないから大丈夫だよ」と教えてくれたりしました。何席か後ろにはブラジルのファンの方が座っていましたが、私が「ニッポン!」「バモー!」と声を上げると彼も「ブラジール!!!」「バモ!」と声を上げるので、私と彼の間でも熱い戦いを繰り広げました。

誰もが戦っていたあの空間。9年間待ち続けたワールドカップ。さらにいろいろな視点からフットサルを見ることができ、視野も広がりました。この経験を思い出だけにせず、きちんと日本のフットサル界に役立てていくことが次なる私の目標です。