【コラム】リトアニアのアリーナ事情とフットサル

現在、欧州・リトアニアで開催されているFIFA フットサルワールドカップ リトアニア2021。取材のために現地を訪れている私は、港町・クライペダからグループステージ3戦目が行われるヴィリニュスに移動し、さらにノックアウトステージの日本対ブラジルが行われるカウナスに移動してきました。

リトアニア到着初日は24℃もあり、大半の方が半袖で過ごしていましたが、現在は10℃を下回る日も多く、雨も風も強いので日本の同じ気温より寒く感じるような天候がつづいています。思わずタイツやトップスを買い足してしまった、そんなリトアニアから、今大会の試合が行われている3カ所のアリーナについてリポートします。

私が最初に訪れたのは、フットサル日本代表がグループステージ初戦と2戦目を行ったクライペダ・アリーナ。1階から入場し、2階へと上がる、いわゆる一般的なアリーナの構造です。キャパシティは6,400から最大で7,000を超えるとのことですが、これでもまだ3会場の中では一番小さいアリーナです。

写真はメインエントランスですが、向かって右側には医療スタッフの出入り口、アクレディテーションカードを発行してもらう部屋、メディアセンターの出入口などがあり、左側にはVIPの出入口がありました。選手たちは正面とは真裏から出入りをします。もちろんチームバスをつける余裕もあり、警備もしやすい作りです。

中では写真は撮れないのですが、メディアセンターは入ってすぐにセキュリティチェックがあり(今回はワクチンパスポートの提示も)左側に大型テレビや電源、有線LANが完備された部屋。もちろんWi-Fiも使え、ミックスゾーンにもすぐにアクセスできます。右側の階段からは観客席に上がることができ、試合はそちらで観戦しました。

このアリーナで十分素晴らしかったのですが、次のアリーナはさらにグレードアップします。

あいにくの悪天候で、全景は撮れなかったのですが、こちらが日本のグループステージ3戦目が行われたヴィリニュスアリーナ。キャパシティが10,000人程度で、ネーミングライツはキプロスのアヴィア・ソリューションズという企業が取得しており、「アヴィア・ソリューションズ・アリーナ」と呼ばれています。この「企業名」というのが厄介で、FIFAから送られてくる資料には正式名称(企業名が使われていないもの)が載っているのですが、タクシーでは通じないことが多いのです。

日本でも国際戦の公式試合では「東京スタジアム」「横浜国際総合競技場」が使われますが、確かに「東京スタジアムはどこですか?」と聞かれてもピンとこないかもしれません。

屋外にもビジョンがあり、大会名、開催期間、チケット情報などが流れているのが幹線道路から見えます。町田駅の電光掲示板にはゼルビア町田やペスカドーラ町田の試合情報が流れていますが、普段の生活のなかで目に見える場所に競技の情報がある、って重要なことだと思っています。

ここでももちろん、観客、メディア、VIPなどの動線がしっかりと分けられ、メディアセンターは有線LANもWi-Fiも完備。出てすぐの2階席から試合を見ることもできますが、さらに上に上がるとピッチ全体を見渡せるエリアがあり、寄りの映像やスローが手元で見られるよう、ひとりに一台モニターが用意されていました。

メディアセンターの中から「これから試合が始まります!」という中継や、ニュース映像が撮れるように、大会のバックボードも置かれています。イランのテレビ局のディレクターと何度か顔を合わせていて、パラグアイ戦では日本に声援を送ってくれていましたが、試合が終わったあとはすれ違うたびに「ヘイ!ブラジール!!!」とノックアウトステージで強豪と対戦することをイジられました。稲葉洸太郎さんはきちんと用意されている席に座っていただけなのに、映り込むから、とどかされていました。

他国のメディアの方々、とにかくパワーがすごいです。グイグイいく、空気を読んだり遠慮したりなんてしない。ミックスゾーンはピッチレベルの階段を降りた地下にあり、今回はコロナ対策で選手が通る場所と私たちがいる場所にもう一本通路と同様のスペースがある作りになっていましたが、他国の方はどんどん乗り出し、カメラやマイクを突き出します。しかも声がとても大きいので、日本のメディアは選手の声を録るのに必死です。「お疲れさまでしたー!試合についてですがー!」とほぼ叫んでいるような状態でも選手は時折「ん?」と聞こえない表情をしますし、選手も試合後で疲れているのに「そうですねー!この試合ではー!」と叫ぶような状態。こういったパワフルさにも触れ、日々刺激を受けています。

 

そして今、ノックアウトステージが行われるカウナスにいます。カウナス・アリーナは川沿いにあるのですが、今回の3会場のなかで一番大きく、とにかく敷地が広大です。写真はアリーナの裏側ですが、駐車場の入口で下ろしてもらい、写真左のメディアの出入口まで結構歩きました。ここでもビジョンにワールドカップの情報が流れています。日本のチームバスもありました。

今回感じたのは、ただ飾るのではなく「分かりやすい」ということ。初めて訪れる大きなアリーナでも、どこに行けば何があるかが分かりやすいです。メディアも関係者も各国から訪れるのでなおさら、視認性も重要な要素だと感じます。

メディアセンターとミックスゾーンは同じ階層にあり、観客席にはひとつフロアを上がります。ここではバスケの試合やコンサートも行われているようで、そのときの模様が貼ってありました。それを見ただけで熱狂が伝わってきます。花火が上がることもあるようで、夜空とアリーナと水面と・・・写真でこれだけ美しいのだから、実際に見ることができたら、どんなに素晴らしいんだろう。

日本でも武田テバオーシャンアリーナやアリーナ立川立飛など、興行することを念頭に作られているアリーナではチケット販売ブースがあったり、動線を区切りやすい作りになっていたりしますが、現在Fリーグが行われている会場の多くは区立、市立などの体育館が多く、興行で使いたいとなれば自分たちで机を出したり、パーテーションで区切ったりする必要があります。

ただ、今回はワールドカップなので、もちろんリトアニア国内のなかでも環境のいいアリーナが選ばれていると思います。それでは普段のリーグ戦はどうなんだろう? と思い、調べてみました。

情報がそう多くないのですが、リトアニアのフットサルリーグのページ(https://lff.lt/varzybos/optibet-futsal-a-lyga/を見てみると、リーグ戦はここまで立派なアリーナで行われているわけではないようです。ニュースサイトの表記も「Indoor soccer」だったり、「Hall football」だったり、呼び名はさまざま。今回のワールドカップで導入された「ビデオサポートシステム(VS)」について触れたニュースサイトの記事では「the World Hall Football Championship」と記されており、もはや「Futsal」でも「World Cup」でもありません。

リーグのページもサッカー連盟のコンテンツのひとつだし、リーグ戦を行っているのはいわゆる「体育館」っぽい。日本はこれまでに何度もワールドカップに出場していて、フットサル連盟もあり、Fリーグも個別にサイトを持っているのに、2020年ワールドカップ(コロナ禍で1年延期となった今回のワールドカップ)の招致は、リトアニアが成功しました。

なぜ、リトアニアだったのか。その答えのすべてではないですが、一部の要因として、アリーナスポーツが盛んで「魅せることができる」環境にあるのではないかと思います。

日本だったらオーシャンアリーナのほかに、移動も考慮するのであれば代々木体育館や横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナが使えなければこの動線分けや演出には追いつけない。それが、私が今回現地で感じたことのひとつです。